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「魂萌え!」桐野夏生 ☆☆☆☆

 桐野作品を読むのは、弁当工場に勤める女性が死体損壊に手を染める「OUT」、東電OL殺人事件を題材にした「グロテスク」、新潟少女監禁事件を彷彿とさせる「残虐記」についで、この作品が4本目である。女性作家でクライムノベルを書かせたら、高村薫氏や宮部みゆき氏と並んで、桐野氏もはずずことはできないと考え、畏敬の念を私は抱いている。しかしながらこの作品はこれまで私が読んだ三作品と異なり、まったく犯罪をモチーフとしない、いうならば「中高年小説」である。こんな言葉があるかどうかはともかく、青春小説の対義語だという認識で、この言葉を使わせていただきたい。
 本書は主人公の敏子59歳が、4歳上の夫に急死される場面から始まる。それまで専業主婦としてのほほんと生き、いわば世間知らずだった敏子は、いきなり「現実」に直面する。それはアメリカに渡り、八年も帰国しなかった長男の同居の申し出や遺産問題、夫に十年来の愛人がいた、デパートの元重役と一夜の関係を結ぶなどである。最たる読ませどころは夫の不倫を知り、その愛人とゴルフ場会員権を巡って対決するシーンかと思われる。
 また敏子の友人たちや夫の蕎麦打ち仲間との交流や、敏子がカプセルホテルで知り合う老婆や、その甥で失踪する支配人などの読ませるエピソードも盛りだくさんである。主人公と同じく50代の私は実に興味深く読んだ。ただ若い読者が読むと、共感を覚える箇所は少ないかもしれない。
 あまり書くと本書の内容を紹介することになるので、この程度に留めるが、最も気になった箇所を書く。
 まず母親が実の息子との同居を希望しないという設定を筆者が選んだのが、驚きだった。母は愛する息子との同居を望むものだという「固定観念」が私にはあったが、これが本書では崩された。次に敏子は嫁に二十万円の借金を申し込まれるが、結局は百万円を振り込む。それは嫁への愛情ではなく、息子への反発によるものだという設定にも驚かされた。母と息子はたとえ会わなくとも、愛情という固い絆で結ばれているという「幻想」が私にはあったが、これが本書で崩されてしまった。
 次に残念だったのは、敏子が愛人の蕎麦屋を訪ね、そこで花瓶を叩き割るのだが、弁償するという敏子へ「二百五十万円」の請求書が郵送されてくる場面である。「おっ、これからまたドンパチ始めるんや」と期待したが、愛人が請求書を出したことを後悔し、その請求書を敏子から取り返して、「丸く」おさまったのは拍子抜けだった。
 それにタイトルや最終章の「燃えよ魂、風よ吹け」に見られるようなセンスを奇異に感じた。タイトルは「たまもえ」と読む。「萌え」はたしかオタクがメイド喫茶の女性に発情(?)する際に使われたような記憶があるし、どうしてエクステンションマークが必要なのかも、違和感を感じた。桐野氏の作品では「顔に降りかかる雨」や「柔らかな頬」のような思わせぶりなタイトルのほうが私は好きなのだが、これは結局は個人の好き嫌いに帰する話なので、書くのはこれ以上、控えたい。
 余談ながら本書は毎日新聞に連載された作品である。だから筆達者な桐野氏は「読者サービス」として、あまり毒のない無難な作品をまとめあげようという意識で書いたのかもしれない。またNHKでドラマ化されたが、敏子役は高畑淳子氏である。私はこのドラマを見逃したが、高畑氏ならば実にはまり役だと感じた。
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