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「秋月記」葉室麟 ☆☆☆

 葉室麟氏は五十歳を過ぎてデビューされたこともあって、私が目標としている作家である。私が二次通過どまりの歴史文学賞と、どこで落ちたかはわからない松本清張賞を受賞している。氏の作品を読むのは、松本清張賞受賞作の「銀漢の賦」以来、二作目である。
 まず、この作品の舞台となる秋月だが、私の出身地に近く、何度か訪ねた場所だか、秋月の歴史については詳しくないので、新聞で書評を読み、すぐ書店にて購入した。
 本の帯には「期待の新星が、愛する藤沢周平に捧げた渾身の一巻」「いま最も注目を集める新鋭が放ついぶし銀の傑作」といった賛辞が並んでいるが、あながち嘘ではない。たしかに藤沢周平の「蝉しぐれ」を意識して書いていると思えるストーリー運び、具体的には友情・剣術試合・家老の陰謀などのシーンに散見される。それに、たしかに「渋い」作品である。
 登場人物は間小四郎とその友人たち、敵役の姫野三弥、家老宮崎織部、女性詩人原猷などだが、浅学な私はこのうち誰も知らなかったので、誰が実在の人物で、誰が作者の創作かはわからない。秋月の近くに古処山という山があり、そこに小学校の遠足で行った記憶があるが、原古処という学者の名はこの山名に由来するらしいとどこかで聞いたことがある、その程度である。作中に登場する眼鏡橋や葛なども、「たしかにそんなんがあったかもしれんな」程度の記憶しかない。
 いちおう歴史小説を書き、また作者と同じ福岡県出身の私でさえ、なじみの薄い秋月を舞台に、また無名の人物を描いて、これだけの上質な作品に仕上げる作者の手腕には驚いた。
 しかしである。僭越を承知で書き込むが、この作品は「どっちつかず」だなと感じた。歴史小説としては軟らかく、時代小説としては硬いというのが私の評価である。たとえば吉村昭の幕末小説を読んでいると、頭が痛くなるほど歴史的な記述があるが、この作品にはそれがない。本藩福岡藩と支藩秋月藩の関係など、もっと歴史的背景を知りたい読者は物足りなく感じるだろう。逆にエンタメ作品として読んだ場合には、たとえば「伏影」といった忍者もどきの話が浅く、同じく物足りなく感じる読者も多いかもしれない。しかし、日本史上のほとんどの有名人が小説に書きつくされたと感じるいまとなっては、こういった無名の人物を主人公に、硬軟両面の性格を持った作品を書くしかないのかもしれないと、考えさせられた。
 お勧め度は3である。歴史・時代小説を読み慣れていない読者には難しく感じるだろし、「蝉しぐれ」の愛読者には、「蝉しぐれ」を越える作品を書くのは容易ではないんだなと、感じるだろう。
 最後に、この作品で、首をかしげた箇所を書く。ラスト近くになって、女性詩人原猷に語らせたセリフ「さようでしょうか。わたしは武士とは生き方において、詩を書く者のことだと思って参りました。間様の生き方を見ることができて、幸せであったと思っております」があるが、このセリフは必要だろうか。こんなセリフを女性に言わせたくなるような生き方を、作者は主人公の間を通じて充分に描いているのに、ラスト近くになって、こんなダメ押し(朝青龍のような)を書いてしまったら、いままで書いてきたことが全部オジャンになるんじゃないかと感じたことを付け加えたい。
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