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「反転-闇社会の守護神と呼ばれて」田中森一 ☆☆☆☆

 吉田修一氏の「悪人」の書評の中で、このタイトルは「偽装」であると書いた。ならば真に、悪人について、人間の悪について書いた小説は無いかと頭を巡らせてみたが、思い付かなかった。松本清張の社会派小説はたしかに社会悪について書いている。しかしやむをえないことだが、いま読めば色あせて見える箇所は少なくないと感じる。ならば、現代の作家では誰が「悪を書ききっているだろうか」と本棚を見渡した際に、この本が眼に留まった。
 この作品は小説ではない。元特捜検事・弁護士による自叙伝である。しかし、この本は実に面白い。俗に「事実は小説より奇なり」というが、それを裏付ける面白さである。
 一般に自叙伝、特に功なり、名なりを遂げた人物の自叙伝は面白くない。私は松下幸之助の自叙伝を読みたいとは思わない。しかし田中氏の自叙伝はたまらくなく面白い。それは田中氏が詐欺事件で実刑を宣告され、いま獄中にいると私が知っているからだけではなく、氏が元東京地検特捜部の辣腕検事にして、暴力団やバブル紳士たちの顧問弁護士だったという経歴によるものだろう。
 この本の内容は大きく以下の三点に集約される。
 第一点は長崎県平戸の寒村に氏が生まれ、極貧の中から這い上がり、岡山大学法文学部在学中に司法試験に一発合格するまでの「ど根性物語」。第二点は大阪地検・東京地検に勤務し、数々の汚職事件を手がけた際の「暴露本」。第三点はヤメ検として大阪で弁護士事務所を構え、カネにまみれ、人間として堕落してゆく姿を自己弁護する「交遊録」。
 さて、この本から作家志望の読者は何を学ぶべきかという観点から、この本について論じたい。
1)サクセスストーリー
 氏の極貧生活はきわめて悲惨である。ただ氏の学力を信じ、氏を寒村から這い上がらせたのは、母の無償の愛であった。そして氏の「負けるもんか」の精神である。氏の予備校生活や、大学在学中に妻となる女性と同棲するなどのエピソードなど、読んでいて小説に使えそうなネタが満載である。
2)検察の実情
 民主党の小沢代表の公設第一秘書が逮捕された際に、小沢代表は「これは国策捜査」だと発言し、一部マスコミの顰蹙を買ったようだが、田中氏によれば「検察の捜査はすべて国策捜査である」そうだ。すなわち氏は国策捜査でない検察捜査は無いと断言している。また大阪地検と東京地検の「社風」の違い、エリート検事と叩き上げ検事の対立、検察トップと法務省の馴れ合い、天下りを心配する検察上層部、検察と大物政治家の癒着など、「へぇ~、検察もまた官僚の一員なんだ」と驚かされることが多い。警察小説の書き手は多いが、「検察小説」を書くつもりなら、この本は必読である。
3)バブル回顧録
 かつてバブルと呼ばれ、カネが乱れ飛び、経済犯罪が日常茶飯事だった時代があった。田中氏はイトマン事件などの「顧問弁護士」として、あのバブルの時代の「一役者」であった。それだけに、あの時代の経済犯罪を小説の中で取り上げたいと考えるなら、この本はうってつけの「参考書」である。

 以上、単に面白いだけでなく、小説の資料としても利用価値の多い著作である。しかし、氏の暴力団幹部へのシンパシーや、カネと正義に対して無自覚に麻痺してゆく精神など、この本には「劇薬」的要素もかなり含まれているので、かなり心して読むか、あるいはまったく近づかないことをお勧めする。よってお勧め度は4である。
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