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「星々の舟」村山由佳 ☆☆☆☆☆

 村山由佳は初めて読んだ。女性作家だからといって特に偏見があるわけではないが、女性で読むのは高村薫・宮部みゆき・桐野夏生など、どちらといえば女を感じさせない作風の作家が多い。村山由佳はブックオフでこの作品が105円で売られていたので、暇つぶしにでもなればと思って読んだのだが、期待は大きく裏切られ、「大当たり」だった。
 まず本作品の特色を述べると、六篇の短編から構成される家族小説だが、各編の主人公がみな異なる。次男暁・次女美希・三女沙恵・長男貢と子どもたち4人の話から始まり(長女は生後すぐに死亡)、孫娘の聡美・父の重之で終る。一つの家族の話でありながら、その複雑な家族関係や心情の交錯が絵巻物を紐解くように明らかにされて行く。すべての物語を照射するのは、後妻の志津子への追憶であり、この物語は志津子の死去をプロローグとする。
 秀逸なのは暁と沙恵との関係である。志津子は先妻が死去せぬうちに、重之が家政婦だった志津子を孕ませたために、沙恵は志津子の連れ子と偽って水島家に嫁ぐが、暁と沙恵は父親が同じであることを知らず、一線を越えてしまう。それを知った暁は家を飛び出し、沙恵は自殺未遂を図るが一命を取りとめ、幼馴染との婚約を破棄し、暁を想い続けて生きて行く。
 ラストに志津子の墓前で沙恵は暁と偶然に再会し、沙恵は去り行く暁に言葉をかける。

「また・・・・・・」祈るような、消え入るような声で、沙恵は言った。「また、会える?」
暁は振り向いた。その頬が無器用にゆがむ。
「当たり前のことを訊くな。兄妹だろ」(中略)
 そんな娘を見やり、父は心中で問いかける。
(お前はそれでいいのか。本当にそれで、幸せなのか)
----聞いて、どうなるというのだ。(中略)
 青白い頬に微笑を浮かべた彼女は、自分の娘とは思えぬほど美しかった。
----幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。

 開高健が小説には「一言半句」がなければならないと説いたが、この「幸福とは呼べぬ幸せ」は、まさにそれに当たる。幸福と幸せの違いを考えながら、この作品を読むのをまた面白いであろう。
 他に、不倫しか心を燃やせない次女、畑づくりに命を燃やす長男、イジメに遭い、コンプレックスを克服できない孫娘、そして戦争、特に従軍慰安婦に心を寄せた体験が忘れらない父など、家族それぞれの人物のデイテールや心情が丹念に書き込まれていて、非常に読み応えのある作品であった。
 村山由佳はこの手の重い作品はほとんど書かず、もっと軽い作品を書く作家のようだが、ぜひこの手の重くて「暗い」作品も手がけてほしいと願う。なお、蛇足かもしれないが、直木賞受賞作品である。
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