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「国家の罠」佐藤優 ☆☆☆☆

 副題に「外務省のラスプーチンと呼ばれて」とある。ラスプーチンはロシア革命時の怪僧として知られるが、この命名は田中真紀子氏ではなく、鈴木宗男氏だと、佐藤優氏は本書で語っている。
 佐藤氏はノンキャリアの専門職、国際情報局分析第一課主任分析官(佐藤氏のためにわざわざ設けられた職名だそうだ)として、ロシア外交における「情報屋」としての活動を担う。主要任務はロシア政府高官あるいは共産党幹部と、日本の政治家の会談のセッテイングである。
 その過程で、氏は鈴木宗男氏と出会い、両者は信頼関係を築く。一部マスコミは佐藤氏を鈴木氏の腰巾着・運転手などと評したが、佐藤氏は鈴木氏を「盟友」だと著作の中で呼んでいる。しかし、奇異に感じたのは、佐藤氏は鈴木氏を「鈴木大臣」と呼んでいる点である。鈴木宗男氏は北海道沖縄開発庁長官に就任した経験はあるが、大臣職に就いた経験は無い。その人を今も「大臣」と呼ぶことを、佐藤氏は外務省の「文化」だと書いているが、その感覚は国民のコンセンサスとはかなりかけ離れているんじゃないだろうか。しかし外務省に強い影響力を蓄えた鈴木氏に対して、「浮くも沈むも鈴木大臣と一緒です」と媚びたり、おこづかいをもらった大使や、土下座をした外務省高官がいたそうだから、佐藤氏の鈴木氏との「密着」は、外務省の総意に基づいていたと考えられる。だが佐藤氏は外務省を切られ、現在の肩書きは「起訴休職中外交官」である。
 さて本書の読みどころだが、田中真紀子氏と鈴木宗男氏の争い、それに「国策捜査」についての検察の思考、それに対する佐藤氏の戦いの二点が白眉かと思われる。
 小泉政権の産みの親を自認する田中氏は外務大臣のポストを手にし、外務省に乗り込んで来た。田中氏は外務省を「伏魔殿」だと称し、マスコミも田中氏を支援したようだ。外務省幹部は田中氏排斥を試み、鈴木氏に接触をはかる。このあたりは実に読んで飽きさせない。しかし田中氏の奇行・失言もあり、軍配は鈴木氏に上がるかに見えた。しかし小泉首相は鈴木氏も外務省から排斥すべく画策し、外交を外務省から官邸主導へ、外交機密費も官邸へ吸い上げることで、外交族である鈴木氏の抹殺を図る。その過程で、佐藤氏はいわば鈴木氏の露払いとして逮捕され、小泉首相は官邸主導による独自路線として、北朝鮮を電撃訪問する。
 次に「国策捜査」だが、佐藤氏の担当検察官である西村氏は、この事件を「国策捜査」だと明言する。国策捜査の定義は、「時代のけじめ」として必要である。しかしそれは、けっして「でっち上げ」「冤罪」ではない。だから検察は被告が「執行猶予」がつくように努力するのが「国策捜査」だそうだ。検察も政府機構の一員であり、総理大臣が支持率を気にするように、検察もまたマスコミ・世論を気にし、かつ時の政権と友好関係を保ちたいという思惑から、「ターゲット」をしょっぴくのが国策捜査のようだ。
 しかし本書を読み終えて感じたのは佐藤氏の強靭な精神だ。つくづくタフな人だと思う。まず逮捕され、自分が知っても何の対処もできないことは自分に伝えないでほしいと弁護士へ伝え、さらにこの逮捕・起訴を通じて何を優先すべきかを考える。その結論として、外交機密を漏らさない、信頼関係を裏切らない、歴史的評価に判断を委ねるを主目的として裁判を闘うと決意する。そのため保釈要求を出さずに、拘置延長を願い出たりする。また鈴木宗男氏の逮捕に抗議してハンストを行うが、食事がそのままそこにあるのに手をつけない。バナナがそこにあり、バナナを食った夢を見る。朝起きて、バナナがそのままなので胸をなでおろすといった芸当は、とても私にはできないなと感心した。さらに保身や自分の将来よりも「筋を通す」ことを第一義だと考える佐藤氏は、外務省上司の面会も拒否する。
 さらに担当検事とは、敵ながらも信頼関係を築き、こちらは「職住一所」だが、相手は通勤があってたいへんだろうなと、余裕を見せる。この余裕もあってか、佐藤氏の拘置期間は512日にも及んだ。
 そんな佐藤氏は時間をベースとして、一枚の絵や本の1ページのように事実を記憶すると、自らの記憶術を披露しているが、そんな彼の頭脳の明晰さだけでなく、友を裏切らない、国を憂うといった熱い心情、さらにどんな環境にあっても「志」を曲げず、義を貫こうとする佐藤氏のピュアな一面が至るところに感じられる良書である。
 しかし、青臭いことを言うようだが、佐藤氏は鈴木氏にあまりに「ベッタリ」過ぎないか。官僚と政治家は不即不離の原則を貫くべきではないのか。もし鈴木氏が官邸に入れば、佐藤氏も外務省を辞めて秘書官として官邸入りし、北方領土交渉を担うつもりだったのか。
 あるいは森・小渕・橋本といった政権は日露交渉において、どんな失敗を繰り返したのかなど、佐藤氏だからこそ知りえる事実についての言及が無いのが、残念に思えた。よって☆4つの評価である。
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